親子で語らう狂言論が、最高の肴。

大藏基誠 おおくら もとなり(能楽師狂言方)
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渋谷セルリアンタワーの地下2階に能楽堂があるのをご存じだろうか。能楽師狂言方・大藏基誠は、2カ月に一度、この若者文化の象徴とも言える渋谷の街の檜舞台に立ち、現代流の狂言鑑賞の楽しみ方を提案している。大藏が企画・運営している狂言とパーティーを融合させた「狂言ラウンジ」は、今年(2018年)の4月で50回目の公演を迎えた。

650年以上にわたって受け継がれる大藏流狂言方の伝統を守りながら、新しい試みを積極的に取り入れている彼には、前進するために過去を振り返る時間が欠かせない。その日の舞台を思い出しながら、オールドパーのグラスを傾ける。飲み方は、たいていストレート。まったりと酔いを愉しむ特別な時間が、狂言について思いを巡らすにはちょうどいい。

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師匠でもある父、二十五世大藏彌右衛門との幼い頃の思い出は、舞台を終えて自宅で晩酌をしている父のとなりにちょこんと座り、大先輩の口から語られる狂言の魅力に酔いしれたこと。実際に酒を酌み交わせる年齢になってからは、父と肩を並べて飲む機会はあまりなかった。

ただ一度だけ、奈良にある父の家に泊まった時に親子で飲んだことがある。何を話したかは、よく覚えていない。ただ、大藏流家元としての在り方など、普段は聞けない話ができて楽しかった。それは、背筋を正して師匠から奥義を拝聴するという堅苦しいものではなく、室町時代から伝統を継承し続けてきた大藏家のごく普通の親子の会話。琥珀色の液体が注がれたグラスを挟んで話す時、この家では狂言がいちばんの肴だ。

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狂言好きな大藏親子のDNAは、父となった基誠から息子の康誠にも受け継がれているのだろう。康誠は、ほろ酔い気分の父親と狂言の話をするのを楽しみにしている。あたかも、大藏自身が父・彌右衛門と過ごした少年期のように。

大藏と息子の康誠は、能楽師狂言方の父子が主役の映画『よあけの焚き火』の撮影を4月に終えたばかり。来年早々に公開される予定のこの映画の中でも、大藏はオールドパーが注がれたグラスの傍で、狂言について語っている。650年守り続けてきた伝統のこと、その過程で途絶えていった母方の家のこと、祖父の名前から一文字とってつけられた息子の名前のこと。映画の中の役柄と同じように、大藏はプライベートでもオールドパーを飲みながら、とことん誰かと語り合うのが好きだ。それは、友達だったり、気の知れた仕事仲間だったり。息子の康誠が成人した暁には、おそらく良い飲み仲間になるのだろう。

この先、大藏流を継承していくであろう自分の子どもはもちろん、次世代の子どもたちにも狂言の面白さを伝える活動を続けていきたい、と大藏は語る。その思いは、節目の公演を迎えた「狂言ラウンジ」の舞台にも反映されている。渋谷の能楽堂に響く観客の笑い声は、毎日の晩酌同様、彼の狂言への情熱を支える活力なのだ。

取材協力:セルリアンタワー 能楽堂
http://www.ceruleantower-noh.com/

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